2026年10月16日、「トラウマ転換ウォーキング」をiPhone・Apple Watch向けのアプリとして公開しました。
公開を迎えた今、機能の紹介とは別に、書いておきたいことがあります。なぜ、この方法をつくった僕自身が、トラウマを成長につなげられたと感じているのか、ということです。
この記事の中心
振り返って、いちばん大きかったのは、自分にとって分からないままだった脅威を理解し、対処できるようになったことでした。そのために考え、学び、書くことを重ねました。歩くことや音楽は、その過程で心と体を支える補助として使ってきたものです。
これは、僕自身の経験を振り返る記事です。今も残っている不調を含めて、僕にとっての「改善」と「成長」を、できるだけ正確に言葉にしてみます。
僕が怖かったのは、何をされているのか分からないことだった
僕には、いろいろな心の傷がありました。とくに苦しかったのは、やっていないことをやったと言われたり、身に覚えのないことで悪者として扱われたりする経験です。
向き合うこと
もちろん、僕自身にも、悪いことをしてしまったことや、反省すべきことはあります。それは、それとして向き合う必要があります。
分けて考えること
ただ、自分に反省点があることと、していないことまで自分がしたことにされることは、分けて考えなければいけません。
当時の僕には、そうした複雑な状況を十分に理解し、対処する力がありませんでした。自分では使ったこともなく、よく知らなかったやり方で追い詰められる。その「何が起きているのか分からない」という状態が、強い怖さにつながっていました。
心の傷のつき方も、影響も、一つの出来事だけでは説明できないほど複雑でした。詳しい出来事をすべてここに並べることはしませんが、一時期は、パニック発作のような反応が頻繁に起こり、首や肩の強いこわばりもありました。スーパーに入るだけで体に反応が出ることもあったのです。
ここで書いている症状は、当時の僕の体験の説明です。医学的な診断名をつけているわけではありません。
気分を変えるだけでなく、理解して対処できるようになりたかった
僕が必要としていたのは、その場の気分を少し変えることに加えて、自分が怖がっているものを知り、それに対処できるようになることでした。
何が起きていたのか。自分は何に反応しているのか。何が分からなくて怖いのか。どうすれば、同じようなことに対して対処できるのか。
そうしたことを考え、学び、自分の経験と言葉を照らし合わせてきました。僕の言い方では、怖かったことを「知り尽くす」くらい深く理解しようとしてきた、ということです。
幸せの種「気づき」の「はじめに」でも、僕は「知ること」を大切にしています。専門的な知識を学ぶこと、自分の感情や恐怖を理解すること、そして思い込みだけでなく事実に基づいて状況を把握すること。この三つは、僕の中でつながっています。
何でも自分のせいにすることでも、反対に、何でも相手のせいにすることでもなく、自分が理解する必要のあることを、できるだけ具体的にしていく。その積み重ねの中で、以前は分からずに恐怖していたものに、対処できるようになっていきました。
僕が「成長した」と感じる中心は、この理解と対処の力が育ったことです。
本人の振り返り
書くこと、歩くこと、音楽を使うことには、それぞれ役割があった
この変化は、トラウマ転換ウォーキングだけで起きたと考えているわけではありません。
僕は、「サヨナラ・モンスター」で伝えている書く実践も合わせて行ってきました。自分の中で未処理・未消化だと感じていた感情に向き合い、考え、言葉にし、理解を深めていく。その過程と、歩く実践は結びついていました。
書くことには、心の中にあるものを言葉にして、自分で確かめていく役割がありました。一方で、つらいことを考えているだけでは、心も体も弱ってしまう。僕には、体を動かしながら自分の状態を支える時間も必要でした。
そこで、ウォーキングをしながら音楽も使い、今の自分にある感情を扱ってきたのです。歩くことと音楽は、理解し、対処していく取り組みを続けるための、心と体の健康の補助でした。
僕の実践の役割
書く
経験や感情を言葉にし、自分で確かめていく。
歩く・音楽
心と体の健康を支え、取り組みを続ける補助。
書籍『トラウマ転換ウォーキング(第三版)』でも、書く実践と、歩いて浮かんだ気づきをつなげることに触れています。今回のアプリは、その長い実践の後に形にしたものです。以前の僕が、今公開しているアプリを使って変わった、という時系列ではありません。
今も不調は残っている。それでも、昔と比べて大きく変わった
以前は頻繁に起きていた反応や、強かった不調の多くは、僕の実感では大幅に改善しました。
だから、「何の不調も残っていないから成長できた」とは考えていません。以前の自分には分からなかった、自分に対する脅威を理解し、対処できるようになった。その変化を、僕は成長だと感じています。
幸せの種「気づき」に以前書いた「トラウマを『乗り越える』とは」でも、苦痛が完全にゼロになることだけを、乗り越える基準にはしていませんでした。今回あらためて振り返っても、その考え方は同じです。
残っているものがあることと、ここまで変われたこと。その両方を含めて、今の僕なのだと思います。
「成長」という言葉で、体験と研究を混ぜないために
PTGという概念
心理学には、困難な出来事と向き合う過程で経験する肯定的な変化を扱う、心的外傷後成長(PTG)という考え方があります。成長と、なお残る苦痛が併存することも論じられています。[1]
Tedeschi & Calhoun(2004)
この記事も、僕の体験と現在の受け止め方を記したもので、PTGを測定した報告や、アプリの効果を検証した研究ではありません。
僕自身は、理解と対処の力が育ったことを、不調が大きく改善していった過程と結びつけて捉えています。一方で、書くこと、歩くこと、音楽、学ぶことのうち、どれがどの程度関わったのかを、個別に切り分けて確かめたわけではありません。
その範囲を守ったうえで、僕は自分の変化を、成長として伝えたいと思っています。
その実践の一部を、アプリとして届けられるようになった
自分のために工夫してきた方法を、書籍や記事として言葉にする。そして今度は、iPhoneやApple Watchで使える道具にする。2026年10月16日のアプリ公開は、その積み重ねの中の一つの節目です。
アプリに持たせたのは、歩く実践を支える具体的な役割です。
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01時間を支える。 区間ごとに設定した時間で進み、実践の流れを支えます。
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02音楽を扱いやすくする。 自分に合う音楽を選べます。音楽なしで行う選択もできます。
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03記録を残す。 歩いた実践や、その後に加えた気づきを振り返れます。
実践から、公開まで
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以前からの実践
書く・歩く・音楽を使い、理解と対処を重ねる。
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書籍・記事で言葉にする
経験と考え方を伝える。
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アプリ公開
実践を支える道具へ。
何を理解するか、どのように自分の状況を捉えるか、どんな対応を選ぶか。そこは、アプリが本人に代わって決めることではありません。アプリは、僕が使ってきた補助の一部を、日常で取り入れやすい形にするためにつくりました。
僕が伝えたいのは、自分を理解し、対処する力を育ててきた経験
かつての僕は、分からないことに恐怖し、その影響で苦しんでいました。そこから、学び、書き、自分の感情も見つめながら、理解と対処を少しずつ積み重ねてきました。その間、歩くことや音楽を、心と体を支える補助として使ってきました。
今も不調はあります。それでも、昔と比べて大きく改善し、自分では対処できなかったことに、対処できるようになった。そして、自分が工夫してきた実践を、ほかの人が使える道具として公開するところまで来ました。
僕にとって、今回のアプリ公開には、そういう背景があります。
これは僕の経験であり、誰もが同じ道を進む必要があるとは思っていません。それでも、なぜ僕がこの方法を伝え続け、アプリまでつくったのか。その理由を知ってもらうために、今の言葉で残しておきたいと思いました。
僕が成長につなげられたと感じる理由は、分からなかったことを理解し、対処できる自分へと変わってきたから。その取り組みを支えるものの一つが、トラウマ転換ウォーキングでした。
参考文献・関連する本人の発信
- Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G.(2004). Posttraumatic Growth: Conceptual Foundations and Empirical Evidence. Psychological Inquiry, 15(1), 1–18. 原論文
- Frazier, P., et al.(2009). Does Self-Reported Posttraumatic Growth Reflect Genuine Positive Change? Psychological Science, 20(7). 学会による論文紹介・抄録
- 菅原隆志「幸せの種『気づき』―はじめに」「トラウマを『乗り越える』とは:未処理の記憶を再処理し、『心の説明書』を手に入れるまで」。著者の考え方・体験の背景として参照。
- 菅原隆志『トラウマ転換ウォーキング(第三版)』。第三版の書籍情報(Amazon)。関連する書く実践:サヨナラ・モンスター公式サイト。
公開・製品情報の確認:2026年10月21日。体験部分は筆者自身の振り返りです。アイキャッチは記事のための概念イラストです。
